まず誤解のないように、「抗生剤」は病気によっては非常に有効であり、すべてにおいて不要であるという主旨ではないことを冒頭に記しておきます。

感染症の原因となるのは主にウイルスや細菌です。ウイルスと細菌は全く別の病原体です。「風邪」という言葉は病名とは言えないような曖昧で便利な呼び方ではありますが、いわゆる風邪症状でクリニックを受診される患者さんの多くはウイルスによる感染症です。

実は、抗生剤はウイルス感染症には効果がありません。誤解を恐れずに言えば、風邪は自然に治るわけです。

一方で、裏を返せば一部には抗生剤を必要とする細菌感染症も含まれているのも事実です。みなさんにも馴染みのありそうな例では、のどの炎症を起こす溶連菌です。溶連菌感染症は抗生剤が非常に有効です。当院でも、のどに特徴的な所見があったり、周囲の流行があって疑わしい場合は検査を行い、抗生剤が必要かどうかを判断しています。

 

ここで、「ウイルスか細菌かって毎回区別がつくものなの?」という疑問は当然湧いてくると思います。

確かにウイルス感染である確証はありません。

「もしウイルス感染疑いで抗生剤を処方されずに様子を見ていて、実はそれが細菌感染だった場合どうしてくれるの?」

全身状態が悪くなければ、普通は手遅れになる心配もありません。当院で処方日数を4日程度にしているのは、それで回復しないのなら改めて見直しが必要であるという意図でその処方日数にしています。初期から全身状態が悪い(ぐったりしている)場合、院内の血液検査で炎症反応を見ています。それでおおまかな判別がつきます。

「はじめから抗生剤を飲んでおけばいいんじゃないの?」

抗生剤のデメリットがあるのも事実なんです。

一番は「耐性菌」問題でしょう。ウイルスが感染の原因であっても常在菌と呼ばれる細菌はたくさん存在します。細菌も抗生剤にやられっぱなしではなく、「耐性」という抵抗力を獲得する細菌が現れ始め、抗生剤の効きにくい「進化した」細菌による感染症が起こる可能性が出てきます。下痢を起こす方もしばしばいらっしゃいますし、まれにアレルギーが出ることもあります。

「でもいつも抗生剤を飲むと治るんです!」

もちろんすべてがそうだとは言いませんが、抗生剤を飲んで2-3日後とウイルス感染が自然軽快するタイミングが重なっていることも多いと思います。特に大人の方では、数日市販薬で様子を見たが治らないので受診して抗生剤を処方されたら良くなった、というケースはそういうことがほとんどかもしれません。

 

まとめますと…

一般的に「風邪」と呼んでいる症状の多くは抗生剤が不要である。

抗生剤は正しい「相手」に用いれば非常に有効な薬剤である一方、みだりに用いると「耐性菌」など重大な問題を抱えることになるので、慎重に適応を見極めている。

ということです。